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中国上海・無錫・蘇州「社区教育」調査報告書
  
     −2001年10月9日〜14日−

 発行:東京・沖縄・東アジア社会教育研究会 「社区教育」調査団
    (秘書長・上野景三、佐賀大学文化教育学部)
    発行年月:  2002年11月


 目   次
はじめに−中国・社区教育の潮流− 小林文人 ・・・1
調査団名簿・調査日程記録              ・・・3
閘北区し江西路街道社区教育について 松田武雄 ・・・4
閘北区社区教育資料            黄 丹青 ・・・6
 「し江西路街道社区学校規約」             
 「学習型社区の建設」(抄訳)              
 「閘北区社区教育の実践と模索」            
金山社区学院について           内田和浩 ・・・15
無錫市における社区教育について    小林平造 ・・・18
蘇州市における社区教育について    上野景三 ・・・20
「学習の楽園、生活の家庭         永田 香 ・・・23
 ―彩香地区の社区教育センターの運用モデルの探求―」
『城区社区教育現代化の模索』(1996〜2000)より   黄 丹青・・・27
浦東新区都市(城区)市民教育基地の現状に関する調査報告  黄 丹青・・・31
中日社区教育合同研究討論会記録    末本 誠・・・37
資料1 中国社区教育に関する質問事項 2001.10.10 上海
資料2 日本における社会教育の変遷(松田武雄)
上海社区教育研究の諸課題        松田武雄・・・39
中日「社区教育」共同研究に関わる問題関心   内田和浩・・・43
入手資料一覧             ・・・44
編集後記
                    

 


 はじめに−中国・社区教育の潮流−   

 私たちの「東京・沖縄・東アジア社会教育研究会」(TOAFAEC)は、1996年以降、研究年報『東アジア社会教育研究』を毎年刊行してきたが、その創刊号から「社区教育」についての報告を取り上げている。
 一部に天津についての論考(黄丹青)や、台湾の「社区」大学の研究を含むが、主として上海「社区教育」に関するもので、すべて1990年代後半の新しい動きである。大都市・上海を舞台に、これまでにない新しい「社区」(Community)の思想と実践の潮流が動き始めている。
 参考までに、『東アジア社会教育研究』(1号1996年〜6号2001年)に収録されている「社区教育」についての諸報告を一覧にしておこう。

A.社区、社区教育
 ・羅李争・蘇鶴鳴訳 :上海「社区教育」の動向−新聞記事より−(第1号)
 ・袁允偉(羅李争訳): 生涯教育の思想と社区教育、街道教育委員会(第2号)
                    −上海市の動向を中心に−
 ・羅李争:上海の社区教育の発想と動向−文献『社区教育への探求』紹介−(第2号)
 ・黄丹青:中国における社会教育の新たな動向−社区教育・天津市を事例に−(第2号)
 ・葉忠海(呉鳳光訳):上海市社区教育の歩みと発展の方向(第3号)
 ・黄丹青:華東師範大学継続教育学院編『社区教育理論』シリーズ(第6号)

B.大学改革、社区大学
・王鴻業(羅李争訳):上海・業余大学の社区学院への転換(第4号)
・楊碧雲:台北市における社区大学の運営及びその管理について(第5号)
 ・袁允偉(羅李争訳):中国の地域成人高等教育学校の新しい動向(第6号)
           −上海市閘北区業余大学から社区学院、社区高等職業学院へ−
 ・楊武勳:台湾における社区大学の位置づけと課題(第6号)
           ―生涯学習と大学開放の新しい試み―

 これ以外にも、最近の中国「社区教育」の動きについて、いくつもの報告が出されている。たとえば、牧野篤(「中国における教育の地域化に関する一考察−上海市「社区」教育の試みを一例として−」中国研究所『中国研究月報』563号、1995年1月ほか)、中田スウラ(「現代中国における地域教育活動の展開−北京市「社区」教育・承徳市成人教育活動を中心に−」、日本社会教育学会紀要 bR2、1996年、ほか)、新保敦子(「中国の生涯教育施設の発展と現代化−補習教育から学習社会実現へ向けて」小林・佐藤編『世界の社会教育施設と公民館』エイデル研究所、2001年)などである。

 私たちの上海「社区教育」研究は、いまようやく始まったばかりである。未だ狭い知見に止まるが、社区教育の最近の動きには、中国のこれまでの労農教育・業余教育・掃盲教育・成人教育等の展開に重ねて、「社区」をキイワードとする新たな発展・改革への志向が含まれ、実際にそのような行政施策が積極的に動き始めていることに強い関心を抱いてきた。
 いまなぜ「社区」なのか。改革開放政策・社会主義市場経済化とどのような関連をもっているか、大都市・再開発地区での新しい動き(他方で内陸・農村部における「社区」活動はいかなるものか)、学校教育における社区活動の実践、業余大学から社区大学への改革動向、社区の施設・センターづくり、社区の福祉・保健・環境と教育との関連、市民運動やボランテア活動の様態、そしてこれら「社区教育」は国際的なCommunity Educationの流れに位置づけてみるとどのような特質をもつのか、日本の社会教育や公民館活動との類似性や異質性はどうか、など興味ある課題がつぎつぎと湧いてくる。
 しかし、理念や課題はともかく、その具体的な展開過程、その実像部分はいまひとつ把握しきれないところがある。地域のインテンシブな実証的調査は簡単ではない。それだけに限られた条件のなかで、出来うるかぎりの調査活動に挑戦しようと努めてきた。2001年秋の訪中スケジュールは1週間たらずであったが、上海の成人教育・社区教育関係者の協力を得て、上海だけでなく、無錫、蘇州へのトラベリング・サーベイも行うことができた。ご協力いただいた各都市の関係各位に心からの御礼を申しあげたい。

 私たちと上海の成人教育関係者や華東師範大学の研究者との出会いは、1994年頃に始まっている。断続的な交流を経つつ「社区教育」研究についての協議が行われたのは1998年秋のことであった。この間、相互訪問や研究交流に関する意向書や協議書などを交わしてきた。
 まず私たちの1998年の上海訪問、その翌年秋には私たちの招聘に応えて華東師範大学の学長、同補佐、継続教育学院長が日本を訪問された。1年の空白をはさんで、2001年秋には私たちが再び上海(そして無錫、蘇州など江南地区)を訪問することができた。本報告書は、その際の調査記録や収集資料をまとめたものである。
 葉忠海氏を中心とする上海の成人教育・社区教育の関係各位、日中・両研究グループの架け橋となってきた呉遵民氏、資料の紹介や通訳など積極的な協力をいただいた黄丹青氏ほかの皆さまに熱い感謝の意を表したい。

 私たちの研究交流はいま端緒についたばかり。相互の努力と友情を息ながく持続していけば、必ずや大きな結実につながるものと確信している。公式の大学・機関間の提携ではないが、大学間の研究者相互の有志的なネットワークによる独自の日中・共同研究の試みが、果たしてどのような成果を生みだすことになるか、一つの貴重な実験でもあろう。          (小林文人)





  上海社区教育研究調査団

団長    小林文人     和光大学教授
副団長   末本 誠      神戸大学教授
団員    松田武雄     九州大学助教授
秘書長   上野景三     佐賀大学助教授
随行員   小林平造     鹿児島大学助教授
随行員   内田和浩     北海道教育大学助教授    
随行員   金子 満      九州大学大学院生
随行員   末本ふじみ     元神戸大学附属養護学校
通 訳   黄 丹青      埼玉大学非常勤講師





上海社区教育調査日程

2001年10月9日(火) 上海到着。調査打ち合わせ。
10月10日(水) 
午前「上海市閘北区の社区教育調査」
 閘北区教育局長・上海行健職業学院から閘北区の社区教育について
 閘北区業余大学・小林国際交流閲覧室見学
午後 閘北区?江西路街道社区教育についてインタビュー調査
 閘北区?江西路街道社区学校及び、閘北区?江西路街道和田地区居民委員会と
 勉学点を見学
10月11日(木)
午前 江蘇省無錫市社区教育についてインタビュー調査(無錫市教育局副局長)
午後 世界一の大仏「無錫霊山大仏」を見学
夜  中日「社区教育」合同研究討論会
10月12日(金)
午前 蘇州市金?区彩香街道社区活動センター見学
    蘇州市金?区彩香街道社区教育について教育局長にインタビュー調査
午後 シルク博物館見学、周荘見学
10月13日(土)
午前 上海市金山社区教育調査
    上海出発―福岡・大阪帰国(末本・松田・上野・金子)
10月14日(日)
 上海−東京帰国(小林・内田)



2001年10月・上海訪問団、<上>夜の上海黄浦江(10日)、<下>江南に遊ぶ(12日)


  

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