■2001年・華東師範大学(上海)継続教育学院とTOAFAEC の研究交流計画 

■(1)華東師範大学・継続教育学院(孫建明院長)からの提議
              −2001年2月12日−

『中国華東師範大学継続教育学院と日本東アジア社会教育研究会(TOAFAEC)と
の学術研究及び相互訪問についての協議書』に基づき、2001年に日本側学者を
中国に招聘し、共同学術研究を行うことを下記のように提議したい。 

1、日本側学者訪中日程及び活動内容:
(1)2001年5月中旬或いは10月中旬、約5日
(2)「社区教育」に関する実地調査・研究交流
  上海に於ける2〜3の社区(地域)教育典型モデルの訪問調査
*上記提案に対する可否、回答、早めにお願いしたい。

2、双方共同による「社区教育」「社会教育」領域についての学術研究計画(案)
(1)研究課題:上海及び日本の社区教育・社会教育の構想モデル及びその実践
  についての実証的比較研究

(2)課題研究の主要骨子:
 ・上海及び日本(たとえば東京)の経済発展及び社会背景についての分析
 ・上海及び日本(東京)の社区建設(コミュニテイづくり)の具体的状況調査
 ・上海の社区建設・社区教育の主要モデルについての個別研究
 ・東京のコミュニテイづくり・地域社会教育の主要モデルについての個別研究
 ・上海及び日本(東京)の社区教育・地域社会教育についての比較研究分析
 ・上海及び日本(東京)の社区教育・地域社会教育研究についての成果報告

(3)課題研究成果の発表:
 ・上海社区教育モデルと実例分析研究(分科報告)
 ・日本(東京)地域社会教育モデルと実例分析研究(分科報告)
 ・双方の社区教育・地域社会教育の構想モデルとその実証的比較研究(全体報告)

(4)課題研究期間:2年

 

■(2)日本・TOAFAEC 側からの返書
       −2001年4月10日−

中国上海市・華東師範大学
継続教育学院々長 孫建明 先生

       東京・沖縄・東アジア社会教育研究会(TOAFAEC)
        代表 小林 文人(和光大学教授、東京学芸大学名誉教授)
       訪中団事務局長 上野 景三(佐賀大学助教授)

拝復
時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
さて、今年二月の貴学院の訪中団招聘の提案に対し、感謝申し上げる
とともに、お返事が遅れたことをお詫び申し上げます。
私どもの研究グループは、今回の提案がこれまでの友好交流の基礎の
上に、さらに研究交流と発展して具体化されたことを、一同喜びをもって
って受け止めております。研究グループで協議いたしました結果、次の
ようにご回答申し上げます。

1,訪中日程及び活動内容
(1)訪中の日程
2001年10月8日からの週の五日間程度を希望いたします。
貴学院のご都合はいかがでしょうか。
(2)社区教育成果に関する交流
上海における2〜3の社区教育典型モデルの参観を希望します。できま
したら、今後の地域調査の対象となるような社区を選定されることを望
みます。今回の訪中では、その典型的な地域の事例を,時間をかけて深
く探求できるようなスケジュールにしていただければ、ありがたく存じます。

2,共同研究について
(1)研究課題の「社区教育」については、賛成いたします。しかし、日本
のモデルとして東京をとりあげることについては、今後の協議課題とさ
せてください。
(2)研究骨子、及び、(3)課題研究の形式、(4)研究期間、については、
2001年5月に末本誠、上野景三が貴学院を訪問した際に、協議するこ
ととさせてください。
 これからの研究交流の発展を願っております。王建盤 学長先生にも
よろしくお伝えください。                    敬具

 

■(3)2001年5月・華東師範大学継続教育学院とのうちあわせ(報告)
           *南の風第688号(上野景三、5月28日)より

「中国華東師範大学継続教育学院と日本アジア社会教育研究会との科
学研究及び相互訪問についての協議書」に基づく共同研究についてのう
ちあわせを下記のように行った。
 5月12日午後、ホテルにて、葉・末本・上野・呉の4名で事前うち
あわせ。事前うちあわせの内容は協議の内容と重なるので省略する。
 5月14日午後、華東師範大学にて、孫・葉・周・末本・上野・呉で
協議を行った。
 まず上野から、社区教育をテーマとすることについては同意すること。
東京を研究対象として設定することには、問題があること。つまり地域
社会教育のモデルは、例えば川崎など別に求めた方がよいこと。調査期
間は、2ヵ年で短すぎ、調査2ヵ年研究、とりまとめ1年として最低3
ヵ年はみておく必要があるのではないか。調査項目と内容をどうやって
決定していくのか。全体的な研究のすすめかたについて検討することが
必要。経費についてはどうするのか。について提案。
 次いで末本さんより小林先生は来春退官されるので、研究の実質は若
い世代が中心にならざるをえないこと。東京をモデルとすることについ
ての是非。科研申請では研究の水準が問われるので、今回の共同研究に
おいても何を明らかにするのか、を明確にすべき。国際的な動向の中で
議論するために、例えばアジア的社会教育発展のプロセスの解明といっ
た研究目標を設定することの可能性、について補足提案があった。
 これに対して、葉教授から中国側として下記の提案があった。
1.研究テーマ:中日大都市社区教育比較研究
2.研究目的:日中両国の発展、及びアジア的モデルとしての社区教育
 の特徴の析出
3.研究の範囲:上海市(旧市・郊外・新市)、及び近隣の都市(蘇州・
 杭州・無錫など)
4.研究内容:
 a.中日社区教育の内容
 b.中日社区教育の趣旨・目的
 c.中日社区教育の機能
 d.中日社区教育の授業とその内容
 e.中日社区教育の様式(模式)‐組織形態・実施形態‐
 f.中日社区教育の実施施設
 g.中日社区教育の管理体制
 h.中日社区教育の運営体制
 i.中日社区教育の職員体制
 j.中日社区教育の今後の展望
5.研究期間:3年間とする。
6.研究方法:
 a.現場の視察と文献の分析の統合
 b.現場の分析‐総合研究と個別研究の総合
7.日程
 a.お互いの調査
 b.比較研究
 c.総括報告、文書のまとめ。国際シンポの実施。
 d.10月の訪問のときに、協議書を策定し、実際の調査にはいりたい。
  そのとき、三つのモデルの調査は可能である。研究のスケジュール
    を確定していきたい。
 e.来年は、中国側の訪日
8.研究経費
 日中合併で、科学研究費の申請をお願いしたい。自国は、自己負担で。
中国側では研究費増にとりくむことで一致。国家教育部にかけあい、国
家レベルの研究課題におしあげることで研究費の増額をはかっていきた
い。継続教育学院としても、研究員を中心として、社区センターのメン
バー及び必要であれば国家教育部のメンバーも加えて研究体制をくんで
いきたい。国家教育部のメンバーをいれれば資料収集も行いやすく、研
究成果の報告もしやすい。費用は調査の他、国際シンポや出版にも使う。

 以上の提案に対し、日本側末本氏より以下の質問が出された。
 日本側には、中国でどのように社区教育(地域社会教育)の研究調査が
できるのか、不安や疑問がある。疑問を大切にし、その交流を図ること
が大切ではないか。例えば、客観的なデータの収集とその方法について、
調査対象地区の歴史や社区教育の歴史について、インタビューが可能な
のかといった調査の方法について、はどうか。
 この質問に対し中国側からは、時代が変わったから全体として何の問
題もないとの回答があった。調査でデータは事前に収集することができ
るので、10月以前に要望や疑問点を提出して欲しい。調査方法としてイ
ンタビューは可能である。共通性の探求は、中国としても大切であると
考えるので、社会の多元化や多様化を前提にした研究を期待している、
などの回答があった。
 この回答に対し、末本氏からさらに質問がだされた。
 葉教授の提案のように、調査項目を単純に比べることにはあまり意味
がなく、むしろ相互の社会背景が多様であることを前提にしながら、共
通の課題を探り相互理解をはかりながら社区教育の共通の理念や概念の
構築を目指しながら、それぞれの社区教育(地域社会教育)を発展させる
ことが重要なのではないか。日本側としては、地域社会教育の今日的な
意義を国際的なレベルで考えていくことが重要と認識しており、そのた
めには何故、社区教育(地域社会教育)を問題とするのかという基本から、
疑問や問題意識の交流をする必要があると考えている。例えば、日本で
は社会教育をめぐって教育の市場主義と公営主義、NPOの存在につい
て等の議論があるが、中国側は今なぜ社区教育を問題とするのか、その
点についての説明を求めた。
 この質問に対して葉教授から次のような説明があった。
上海において社区教育が登場してくるのは1980年代半ばからのことで
あり、その目的は小・中学生の校外活動において道徳教育を強化すると
いう目的から生まれてきたものであった。道徳教育の体制づくりという
のが主眼であり、主体は学校でそれを家庭・社区へと拡大させようとし
た。社区は、学校の手伝いをするというものであった。以上が90年代
までの第一段階であり、93年から第二段階に入ることになる。第二段
階では、学校中心であった社区教育が、住民を中心した社区全体に主導
権が移り、社区に居住する人の教育問題となる。そこでの社区教育の目
的は居住している人の生活の質の向上、社区の発展の二つが掲げられた。
 今日では、社区教育の目的は、@生活の質を高める A社区の発展で
ある。目的としては、三全教育が掲げられている。三全とは、@全員、
A一生(全プロセス)、B全方向(個人の発展の全方向)、を意味している。
この点は、アメリカのコミュニティ教育の会長が感心した。このような
社区教育が登場する背景としては、@職業再教育の必要性(職業訓練‐
上海だけで、100万人)、A盲流対策(知識や技術を持たない年への流入
者に対する教育)、B高齢化社会の進展(90年代末で230万人、人口の
15%)、C農村の都市化に伴う農村人口の近代化(農民に対する近代都
市住民としての教育)、D国際化(国家を開放するために市民の資質の
向上という課題、例えば10月に開催されるAPECにむけて100の英
語での挨拶ができるように勉強する)、E人権の問題(障害者の教育、
コンピューターを使った障害者の教育が展開)といったことある。
 なぜ社区教育を重視するのかといえば、下からの力の形成が必要であ
り、国は権利を下放している。地域の問題は地域で解決していくといこ
とが求められ、国はしたから後からを利用し援助するうになったからで
ある。
 以上の説明をうけて、日本側からは、次回の10月の訪問の際には、
問題意識の共有化、概念整理の作業、調査対象地区に関する地域の特色
分析を共同で行うこと、社区教育の地域調査、の三つが日程に組み込ま
れる必要があることを提案した。
 この提案に対して、中国側から、加えて近隣地区への研修の実施と公
開講座をお願いしたいとの提案があった。

 

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■(4@)日中大都市地域社会教育共同研究計画案(日本側提案)7月7日

1.趣旨:日本と中国の社会教育および社区教育の理論的、実践的課題に関する共同研究。
2.目的:日中の社会教育研究者が、日本の社会教育と中国の社区教育の比較研究をするこ
       とにより、社会教育・社区教育相互の理論と実践の発展を目指す。
3.方法:日本と中国双方での実地調査と討議による。
4.研究活動の内容:
 @ 日中双方の理念の、比較検討(中国側提案のa〜b )。
 A 日中双方の歴史、社会的な背景の比較検討(中国側提案のc )。
 B 典型的な地域、及び施設の実地調査(中国側提案のd〜h )。
 C 日中双方の、基本的な用語集の作成。
 D 日中共通の基本概念の明確化(中国側提案のc )。
 E 日中共通の理論的・実践的課題の明確化と、その解決のための取り組み(中国側提案
    のj )。
 F 日中共通理解の普遍化。例えば、用語集の他のアジアの国々への範囲の拡大。
5.共同研究の進め方:
 @ 基本資料の交換。
 A 双方の理念、歴史・社会的な背景の紹介と交流。
 B 課題の明確化と交流。
 C 用語の集約。
 D 調査地の特定と、その典型性の明確化。
 E 実地調査の実施。
 F 調査地の資料の共同での分析。
6.期間:2001年〜2003年度の3年間とする。
7.日程:2001年には10月に日本側が訪中して調査を行い、2002年には中国側が日本で実地
      の調査を行う。2003年度は、まとめの年度とする。
8.成果のまとめ方:
 @ 報告書の作成。
 A 報告会の開催。
 C 国際シンポジウムの開催。
 D 日中共同研究者による、共著の刊行。
9.経費:
研究にかかる経費は、自国は自己負担で行う。それぞれの国での実地調査にかかる費用につ
いては今後協議する。日本側は、文部科学章の科学研究費への申請に努力し、中国側は研究
費増にとりくむ。

■(4A)日中大都市地域社会教育共同研究に関する補足
1.研究に至る動機の部分で日中双方に隔たりがあることを確認することは、共同研究にと
 って大切なことである。中国側は現実・実践的であり、日本側は研究・実践的である。こ
 れれらの違いを違いとして相互に認め合いながら、共通する問題の共有と解決にあたるこ
 とが課題である。
2.比較研究を行う場合、それが形式的・静態的である場合には双方の相違点が強調されす
 ぎる可能性が強い。相違点よりも共通性の探求を重視し、相違の中の共通性の探求とその
 発展のための実践的な理論の探求が、必要である。それぞれの国で使われている社会教育
 関連の用語をもちより、共通の理念や概念構築を試みる材料として活用することなどの、
 試みをする必要がある。
3.日本側は、研究交流の焦点として中国の社区教育センターでの文化活動の前提に、住民
 の強い学習要求が存在し、さらには人権の問題として障害者の学習機会の保障などが問題
 になっていることに、関心を持つ。
4.日本側の中国での調査地としては、上海市の開発の進んだ社区教育のモデル地区だけで
 なく、現在は整備が進んでいないが今後にその発展が期待される地域や伝統的な旧市内、
 および上海とは違った形での進捗を見せている近郊の別の都市などを対象とし、形式的・
 表面的な視察に終わらない実質的な調査を希望する。
5.事前の資料として、日本側は以下の資料を希望する。
 @ 調査対象地域の地図。
 A 人口構造を知るための統計資料。
 B 産業構造の概略を知るための統計資料。
 C 対象地域の歴史的概観。
 D 行政組織。
 E 社区教育に関する行政関連の資料。規則・決定等。
 F 社会的・文化的関連施設の資料。
 G 地域の団体・組織の概観。
 H 地域課題の概観。
 I 社区教育実践の概観と特徴。
6.日本側訪中研究組織(10月9日〜13日)
  団長     小林文人(和光大学、TOAFAEC 代表)
  副団長    末本 誠(神戸大学)
  事務局長  上野景三(佐賀大学)
  団員     松田武雄(九州大学)
  団員     内田純一(東京都立教育研究所)
  随行員    小林平造(鹿児島大学)
  随行員    内田和宏(北海道教育大学)
  随行員    金子 満(九州大学大学院生)
  通訳     黄 丹青(華東師範大学出身、東京大学大学院修了生)
  ※ 中国からの正式の招待には、随行員および通訳は含まない。

 

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■(5)10月日程延期についての意向打診(継続教育学院)9月4日
 TOAFAEC代表・小林文人宛:
 にんはお!
 お手紙を拝受し、研究計画を拝読しました。葉忠海先生ほかの皆さんにも
伝えました。皆さんのご計画は、私たちの意向も充分に考慮し、具体的かつ
詳細、実践的で見通しもあります。社区成人教育の研究を推進しようとする
計画実の実施にあたって、明確な役割を果たすと思います。
 これらの項目を実行していく時期について、私たちの意見は若干の変化が
あります。最近、我が大学は機構及び人事制度の改革を進めています。大学
本部は継続教育学院についても調整中で、具体的な方策を検討している最中
です。9、10月には、成人教育研究所は変動の可能性が大きいです。私は、
これが課題研究に影響をもたらすことを憂慮し、課題研究計画をしばし延期
し、2002年に開始することを提案したいと思います。その方が私たちの
研究経費の調達にも有利で、課題研究の条件を確保していく上でも好都合と
考えます。
 先生はこの提案にご同意いただけますでしょうか?
 王学長から、私たちを代表して、貴研究会の皆様にどうぞよろしく伝えて
ほしいとのことです。                 敬具
      華東師範大学継続教育学院、孫建明 (2001年9月4日)

 

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■(6)同上書簡に対する返書(TOAFAEC)9月18日
  華東師範大学継続教育学院         2001年9月18日
  院長  孫 建 明 先生
           東京・沖縄・東アジア社会教育研究会
           代表  小 林 文 人(和光大学教授)
  拝復
 9月4日付の和光大学宛貴書簡、9月13日に拝受しました。
10月予定の研究交流活動を来年2002年に延期したいとのご意向、早速私たち
研究会の上海訪問予定関係者に伝え、相談いたしました。
  10月訪問日程については本年4月に確定し、5月には末本誠(神戸大学)、上野
景三(佐賀大学)の両名が、上海滞在中に事前打ち合わせをした経過もあり、関係者
一同、貴学訪問を楽しみにしておりました。すでに航空券も用意し、中国側の査証も
取得した段階での変更については、正直のところ、困惑しています。
  しかし貴学院内の機構改革もおありのご様子、さらに来年に延期した方が「也有利
干我方争取立項経費、為課題研究提供更好的条件保証」というご判断も拝読しました。
たしかに研究活動を推進していく条件を保証していただくことは何よりも重要と考え
ます。
  本年の上海訪問が実現しないことは誠に残念ですが、来年に期待をかけて、共同研
究計画を延期し2002年から開始したいという貴提案に同意したいと思います。
  具体的に来年のどの時期に研究交流日程を設定するか、貴学院からの次のご提案を
お待ちいたします。あわせて「社区教育」等の研究課題について必要な資料・文献な
どご恵送いただければ幸甚です。
  1999年秋、東京でお迎えした王建磐学長、羅国振学長補佐、ならびに葉忠海先
生ほか貴学院関係各位にどうぞよろしくお伝え下さい。皆さまのご健勝を祈ります。
                         敬具

 

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